宗谷本線はどうなるのか その1

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旭川駅にて、左から「大雪3号」「ライラック25号」「サロベツ4号」「ライラック36号」。これは2019年の撮影で、コロナ減便の現在はこの光景を見られる日は限られる。

廃線跡ではなく現役の宗谷本線について、素人考えをしてみる。鉄道も「道」には違いない。

宗谷本線は旭川から稚内を259.4㎞かけて結ぶ、日本最北の鉄道路線である。2021年3月12日までは起点・旭川駅を含めて53駅、翌日からは13駅を一気に廃止し41駅になった。民営化時点では深名線名寄本線天北線といった接続路線を持っていたが、現在では旭川駅函館本線富良野線と接続し、二つ隣の新旭川駅で石北本線と別れた後は単独で255.7㎞を辿る。定義にもよるが、日本最長の盲腸線である。経由する自治体は南から旭川市比布町和寒町剣淵町士別市名寄市美深町音威子府村、中川町、幌延町、豊富町稚内市の4市7町1村。

宗谷本線は大きく二つに性格が分けられる。旭川駅から名寄駅までの南区間と、名寄駅から稚内駅までの北区間である。南区間は76.2㎞(全体の約3割)、北区間は183.2㎞(全体の約7割)ある。どっちもやばいことには変わりないが、やばさの度合いはだいぶ異なるので分けて見ていく。

 

 

〈南区間

区間旭川市旭川駅から名寄市の名寄駅までの76.2㎞である。2021年3月13日以降、この区間には旭川駅と名寄駅を含めて16駅がある。同日のダイヤ改正で5駅が廃止された。廃止された駅を緑、現役の駅を青と赤でGoogle Earth上に表示してみる。

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蘭留駅と塩狩駅との間には塩狩峠があり、国道40号道央道とともに宗谷本線も峠越えをしている。この峠は全国3番目の長さの石狩川にそそぐ水系と、同4番目の天塩川にそそぐ水系の分水嶺であり、降ってきた雨にとってはどちらに行くかで河口が200㎞も変わる運命の分かれ道なのだが、道路も鉄道も標高300m以下で越えている。いずれもトンネルすら穿たない、とても低く緩い峠である。塩狩峠塩狩駅の名は、この峠が分ける石「狩」国と天「塩」国に由来する。

さて、この区間は1898年に旭川駅から永山駅までが開業したのを皮切りに、1903年までに全線が開通している。1997年からは道や旭川市名寄市JR北海道が出資する第三セクター「北海道高速鉄道開発株式会社」が、線路の改良や新型車両の保有を行い、特急の130㎞/h運行をしていた(現在は120㎞/h)。札幌名寄間を最速期は2時間13分(たぶん)、現在でも2時間25分で結んでいる。

運行本数を見てみるが、ここではコロナで減便されている影響を考慮しないことにし、2019年12月時点の本数をWiki風の表にしてみる(現在は、特急の一部が曜日運休になったほか、旭川~比布の一往復が削減されている)。f:id:t93108:20210512202253p:plain

言うまでもないが、片道当り「1日」当りの本数である。永山駅には特急以外は止まるので、そこまでは片道1日19本あるが、北進するほど本数も細っていく。塩狩峠を越えるのは特急を併せて15本である。

 さて、1日にこの本数でどの程度の損益が出ているのか。2019年のJR北海道の発表では、旭川から名寄の収入は6億3200万円、これに対して、列車の運行や駅の管理にかかる支出費用は計33億3000万円。つまり100円を稼ぐのに約527円を要している。悲しいかな大赤字だ。同発表でのこの区間の輸送密度は1393人/日。Wikiでは1500人/日が営業収支を均衡させる目安の数字とされているが、冬季除雪や異常なほどに需要のない駅といった要因を複数抱えている北海道の鉄道では、より大きな数字が必要だと言うことだろう。国鉄末期の特定地方交通線指定の目安は4000人/日だったが、それからすれば即刻廃止レベルである。

この需要のない駅の廃止が、現在の宗谷本線では手っ取り早く費用を節減できる方法である。駅を廃止すれば単純に維持管理費用が浮くし、その駅を通過できるようになることで列車の燃費も向上する(自動車と同じ理屈)。その観点から、JRは「過去5年、1日の平均利用者が3人以下」の駅を廃止若しくは自治体による維持管理に移行する方針を出している。廃止なら費用面・燃費面双方のメリットがあるし、自治体管理でもとりあえず費用面のメリットだけは受けられる。では、この条件に当てはまる駅はどれか。

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少し見辛いが、旭川方から南比布・北比布・蘭留・塩狩・東六線・北剣淵・下士別・瑞穂の8駅である。JR北海道としては、この8駅はほとんど用済みだと考えていると思われる。

さて、この8駅について先ほどの航空写真をもう一度見てみると、瑞穂駅以外については色が異なっている。このうち先述の通り5駅は廃止されたわけだが、赤で示した2駅は、2021年ダイヤ改正自治体管理に移行した。要するにJRからは戦力外通告を受けたわけだ。これを踏まえて、2つの写真を並べてみる。

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左は2021年5月現在の駅、右はそこから自治体管理駅を消したものである。JRとしてはできるだけ右の状態に近づけたいのだろう。旭川駅から名寄駅の76.2㎞で、現在は16駅あるから平均駅間距離は4.76㎞、それに対して自治体管理駅を全廃すると14駅になり、平均駅間距離は5.44㎞まで伸びる。また、こうみると比布駅と和寒駅の間が長いのがよくわかる。同区間は19.2㎞にもわたって必要な駅がないと判断されている。北見峠然り、狩勝峠然り、北海道の鉄道の峠越え区間はそんなものかも知れない。

しかし、峠越えがあるといっても一般道も高速道路も通っている。どちらも線形は非常に良く、峠であることを感じさせないほどである。マイカー社会で整備された道があるのだから、鉄道の利用が衰退するのもある種必定だろう。

それでもまだこの区間はいい方である。上川盆地北の比布駅までは区間列車も設定されている。それに、旭川と名寄は並行する路線バスでは2時間以上かかるが、宗谷本線なら普通電車で1時間半程度、特急なら50分台で行き来できる。バスも名寄始発は7時10分で旭川到着9時26分と通勤通学には使えないが、鉄道なら6時45分発8時15分着の便で悠々だろう。旭川・名寄の都市間に限れば、まだ需要を取り込む可能性はある。

もっとも、道都札幌との往来ではそうはいかない。残念ながら札幌・名寄の都市間では中央バス・道北バス運行の高速バス「なよろ号」に本数、料金、乗り換えで敗北しており、所要時間でしか勝負できていないのが現状である。もちろん旭川で「ライラック」や「カムイ」に乗り継げることを考慮すれば、快速なよろや普通列車も併せて本数では圧勝、時間も3時間程度で高速バスより30分は早いが、世の中乗り換えというのは嫌われ者らしい。

 想定外に長くなったので、北区間は回を改める。

 

つづき

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